大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所一宮支部 昭和63年(ワ)17号 判決

反訴原告

嶌田典幸

反訴被告

大場康男

ほか一名

主文

一  反訴原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告らは反訴原告に対し、各自金二四七万七九七六円及びこれに対する昭和六一年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

反訴原告と反訴被告大場康男(以下「反訴被告大場」という。)の間に、次の交通事故が発生した。

(一) 日時 昭和六一年七月二五日午前一一時二〇分頃

(二) 場所 千葉県勝浦市鵜原一六九番地先路上

(三) 当事者及び車両 反訴原告は、普通乗用自動車(袖ケ浦五五と七七四一、以下「被害車両」という。)を運転

反訴被告大場は、普通乗用車(千葉五八も九二六二、以下「加害車両」という。)を運転

反訴被告大場運転の右車両の保有者は、反訴被告大場塗装工業有限会社(以下「反訴被告会社」という。)

(四) 事故の態様 反訴原告は右場所で、赤信号のため停車していたところ、反訴被告大場が追突してきたもの

2  反訴原告の受傷と通院

反訴原告は右事故により、頸部捻挫の傷害を受け、昭和六一年七月二五日から同年一一月一日まで、吉田外科内科医院に通院した。

3  反訴被告らの責任

反訴被告大場は前記車両の運転者であり、反訴被告会社はその車両の保有者であるから、民法七〇九条及び自賠法三条により、それぞれ反訴原告に対し次の損害を賠償する責任がある。

4  損害

反訴原告が本件事故により被つた損害は次の通りである。

(一) 治療費 合計五四万〇五八〇円

内訳

(1) 昭和六一年七月二五日から八月三一日まで分 二三万五六二〇円

(2) 昭和六一年九月一日から九月三〇日まで分 一四万九二四〇円

(3) 昭和六一年一〇月一日から一〇月三一日まで分 一三万二一四〇円

(4) 昭和六一年一〇月一一日 浅井病院分 二万三五八〇円

(二) 通院交通費 合計八万円

自家用車利用

往復約三六キロメートル・一回一〇〇〇円として、実通院日数八〇日分

(三) 休業損害 合計一一六万九七九六円

(1) 本件事故当時の反訴原告の月給は、一九万四九六六円であった。

(2) 本件事故により反訴原告は休んだため、事故当時勤務していたラツキーモータースを退職せざるをえなくなり、昭和六二年一月二〇日就職するまで失業となつた。

したがつて、この期間六ケ月全期間補償すべきである。

(3) よつて、金一一六万九七九六円が休業損害となる。

194,966円×6ケ月=1,169,796円

(四) 傷害に伴う慰謝料 七〇万円

反訴原告は、前記傷害を受けたため、本件事故の日である昭和六一年七月二五日から同年一一月一日まで、前記医院に通院した(実通院日数八〇日)。

この傷害に伴う慰謝料は、加害者である反訴被告大場の事故後の態度が著しく不誠実であるので、これを考慮して、金七〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 二〇万円

反訴原告は、本件訴訟を反訴原告代理人に委任するにあたり、着手金及び報酬金を支払う旨約したが、そのうち、本件事故と相当因果関係を有するのは、金二〇万円が相当である。

以上合計二六九万〇三七六円

5  損害の填補

治療費の一部一万二四〇〇円は反訴被告大場が支払い、また、反訴原告は保険会社から金二〇万円を受領したので、その合計二一万二四〇〇円を前項の損害に充当した。

6  損害未払金

よつて、反訴被告らは反訴原告に対し、二四七万七九七六円の支払義務がある。

7  結び

よつて、反訴原告は反訴被告らに対し、金二四七万七九七六円及びこれに対する事故の発生の日である昭和六一年七月二五日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項は認める。

2  同2項は否認する。本件事故は加害車両が被害車両にゆつくり接近中の低速での追突であり、両車両の破損なく、加害車両が被害車両を追い出すこともなく停止し、反訴被告大場においても何ら傷害を受けておらず、反訴原告が右事故によつて傷害を受ける可能性は皆無である。

3  同3項のうち、反訴被告らが賠償義務者の立場にあることは認める。

4  同4項はいずれも否認する。

5  同5項は認める。

6  同6項は否認する。

7  同7項は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、反訴原告が本件事故により受傷したか否かについて判断する。

1  成立に争いのない甲第六号証の三ないし五、第八号証の一、乙第一号証、原本の存在、成立ともに争いのない甲第六号証の一、二、六、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証及び反訴原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

反訴原告は、事故直後は痛み等を訴えなかつたが、事故当日の仕事の終了後頭痛、頸部痛、吐き気を訴え、反訴被告大場を伴つて吉田外科内科医院へ赴き、翌日頸部捻挫の診断を受け、その後昭和六一年一一月二一日までほぼ毎日のように同院へ通院し、頸部運動痛、回施時痛、頭痛等を訴え、鎮痛剤等の投与、頸部等の湿布、頸部の牽引、ポリネツク固定等の治療を受け、同月二一日同医院の医師から症状固定の診断を受けたこと、反訴原告は、現在でも季節の変り目には調子が悪い旨を訴えていること

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  しかしながら、他方「(一)(成立に争いのない乙第一号証、原本の存在、成立ともに争いのない内甲第七号証、被写体が加害車両であることは争いのない甲第二号証、被写体が被害車両であることは争いのない甲第三号証の一ないし五、反訴原告本人尋問の結果及び反訴被告大場本人尋問の結果を総合すると、)本件事故の態様は、反訴被告大場が加害車両(マーチ)を運転し、本件事故現場付近に差しかかつたところ、進路前方に信号待ちのため停車中の反訴原告運転の被害車両(スカイライン)を認め、自らも停車すべくフツトブレーキを踏みながら序々に減速し、同乗者と話を交わすため脇見運転をしたため、被害車両後部に加害車両前部を衝突させたものであること、その際、被害車両はフツトブレーキ及びサイドブレーキを操作しており、反訴原告は運転席で手帳を見る姿勢をしていたものであるが、衝突の衝撃により反訴原告の首は後方へ移動したものの、座席のヘツドレストに触れるまでには至らなかつたこと、また、被害車両の後部バンパーは、衝突により多少変形したが、合成樹脂製であつたため、歪は回復し、現在損傷は残つておらず、加害車両は右衝突により損傷がなかつたことが認められ、右各事実に照らすと、反訴原告が右衝突により受けた衝撃の程度は極めて軽微なものであつたと推認されること、(二)鑑定の結果によれば、鑑定人樋口健治は、本件記録を資料として検討したところ、加害車両は被害車両に時速四キロメートルの速度で追突したものであり、衝撃によつて反訴原告の頭部に生ずる後方移動量も約五センチメートルとわずかであつて、このような事故状況からすると、反訴原告の頸椎には、捻挫はもちろん、打撲あるいは外傷性頸部症候群などを生ずる作用の力が働いた可能性はない旨の鑑定を行つていること、(三)成立に争いのない甲第八号証の二、三、前掲乙第二号証及び反訴原告本人尋問の結果によれば、吉田外科内科医院におけるレントゲン検査、脳波検査、筋電図検査によつても、反訴原告に特段異常は認められなかつたこと、(四)反訴被告大場本人尋問の結果によれば、反訴原告は、車両にすらほとんど損傷のない事故を何とか刑事事件にしようとして勝浦警察署へ出頭したが、警察では同人が首へギブスをしながら車を運転して来たことに疑問を抱き、結局取り上げなかつたという経緯が存在すること、(五)前掲乙第二号証及び反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、昭和六一年一〇月中旬ころ反訴被告大場の加入する保険会社が治療費の支払を停止し、前記医院から直接支払請求を受けるや、間もなく通院を停止していること等の諸事実が認められ、右事情にかんがみると、前記1認定の事実から反訴原告が本件事故によりその主張の受傷をしたものと認めることはできないものといわなければならない。そして、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三  そうすると、反訴原告の本件請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小磯武男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例